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第７章「この街は私が守る」 青島(チンタオ)に到着した航、映明、棗の３人はモンスターを倒しながら、孝允がいると思われる灯台を目指した。 灯台の中に入ると、その中もモンスターが溢れており、最上階では孝允が巨大なモンスターと戦っていた。航が孝允に駆け寄って言った。 「孝允、助けに来たと。」 「航君、ありがとう。ところで青島(チンタオ)の住民は全員、避難し終わったかな。」 孝允が尋ねると、棗が答えた。 「はい。我々アドリア海軍が責任を持って、住民を誘導しました。」 「よし、これで戒人宰相から与えられた任務は完了した。ちょっとこの街を守りきるのは難しそうだ。このモンスターを倒したらアドリア海峡まで退いて態勢を立て直そう。」 孝允の号令で、４人は巨大なモンスターを倒し、灯台を降りて棗の船に戻り、アドリア海峡まで退いた。 青島(チンタオ)を制圧した大量のモンスターは海になだれ込んだ。そして、アドリア海峡を守るために配置された、棗が指揮するアドリア海軍の船団と衝突した。 「ここで守り切らないといけませぬ。ここを破られればアドリアシティもモンスターに制圧されてしまう。そうなるとツクヴァも他の街も危ない。」 映明はそう言いながら、必死に戦った。航も映明も孝允も棗をはじめとしたアドリア海軍兵もよく戦い、かなりの数のモンスターを倒した。 しかし、モンスターの数はあまりにも多く、いくらかのモンスターには囲みを破られてしまった。囲みを破ったモンスターはアドリアシティに向かって進んでいった。 さらに一部のモンスターは急に方向を転換して、何かに引きつけられるようにアドリア海峡を東に進んでいった。映明は言った。 「やんぬるかな。囲みを破られてしまったか。」 棗はアドリア海軍兵にモンスターの追跡に加えて、状況を自分と戒人宰相に逐一連絡するように指示した。アドリア海峡の戦いは続いた。 バルカンでは岡が洋、佑馬、修平、達郎をはじめとしたエスタ陸軍兵士達に訓示していた。 「敵はエスタ科学党の残党だ。そして、この街は狙われている可能性が高い。なぜならこの街の周りには様々な種類のエネルギー鉱山があるからだ。 各隊は持ち場の鉱山を守るように。特にインディア火山の洞窟からは良質のウランが取れる。そこには特に注意を払うように。」 その訓示中に男が突然、岡の前に現れた。ロドリゲスである。 「お久しぶりです。岡科学大臣、いえ大統領。この街もずいぶん寂れてしまいましたな。３０年前は大都市だったのに。」 「エスタ科学党の残党か！それに俺はさっき大統領を辞めてきたばかりだから、今は前大統領だ。」 岡が言うと、ロドリゲスが答えた。 「そうですか。私はエスタ科学党員ではなく、あなたの部下の科学省の一官僚でしたから、名乗っても覚えていないでしょう。 まあ、ロドリゲスとでも呼んでください。私はこれからインディア火山に行きます。ちょっとウランが欲しくてね。」 「ロドリゲス・・・。あいつか！」 佑馬はそう言うと、刀を抜いてロドリゲスに斬り掛かった。しかし、ロドリゲスは消えてしまった。 「黒幕はムック像を盗ませたロドリゲスだったのか・・・。よし、俺は洋、佑馬、修平、達郎を連れてインディア火山に登る。他の者は各々の決められた配置に就け。」 岡は兵士達に指示すると、洋、佑馬、修平、達郎と一緒にインディア火山に登っていった。インディア火山へと続く山道からはゴンドワナ大陸と海が見える。 そして、その海を大量のモンスターが泳いで渡っているのが見えた。アドリア海軍の囲みを破って、東に向かったモンスターである。 おそらくロドリゲスはアドリア王国の首都であるアドリアシティと、エスタ共和国の中心都市であるバルカンを占領すれば、この戦いに勝てると思ったのであろう。 だからモンスターの一部をインディア大陸に呼び寄せたのだ。だがバルカンが寂れてしまったのはロドリゲスにとって予想外であっただろう。 モンスターは確実にシュヴィに向かっていた。インディア大陸は険しい崖に囲まれている大陸だが、シュヴィの周辺にはわずかながら浜辺がある。 おそらくモンスターを操っているロドリゲスはそこを狙っているはずだ。状況を把握した佑馬が言った。 「岡さん、俺をシュヴィに行かせてください。シュヴィが破られると、インディア大陸はモンスターに蹂躙されます。」 岡がうなずくと、佑馬は言った。 「よし、達郎。これから俺達はシュヴィに行くぞ。」 「えー。何で俺まで。」 そう言う達郎を連れて佑馬はシュヴィに向かって走っていった。岡、洋、修平はインディア火山に向かって山道を登リ続けていった。 ファンタとクリスはシュヴィに到着した。ジェットスクーターから降りるとファンタが言った。 「このジェットスクーターってのは一体、何なんだ。空中ではフラフラで危ないったら、ありゃしないよ。」 「ファンタさん、あれを見て。」 クリスが指をさす方向をファンタが見ると、大量のモンスターがこちらに向かって泳いできた。 「さすがケバプハカセ。完璧な読みですよ。『この街は私が守るっ』なんてね。」 ファンタはそう言うと、西洋刀を抜いた。クリスも続いて短刀を抜いて言った。 「私達２人だけで本当に撃退できるのかしら。」 「やるしかないよ。」 ファンタは水際で浮き足立っているモンスターを次々と倒していった。クリスも戦っている。 しかし、２人だけの戦いは苦しいものだった。しばらく２人が劣勢を強いられていると、そこに佑馬と達郎が駆けつけた。 「ファンタ、帰ってきていたのか。よく今まで頑張った。あとは俺に任せてくれ。」 佑馬はそう言うと、刀で次々とモンスターを倒していった。この佑馬という男は本当に凄い。ファンタは種類は違いこそすれ、同じ刀を扱う者として昔からそう感じていた。 ファンタ、クリス、佑馬、達郎の４人はモンスターを上陸させまいと必死になって戦い続けていた。 アクティー、ポーラ、雄介の３人はハヴェリの街に到着した。そして、サミット会場に駆け込むと、治郎さんが驚いて駆け寄ってきた。 「２人はあの巨大飛行物体に乗って、こっちに来たのかい？向こうで何があったの？ファンタ君とクリスさんは無事なの？」 「今はあまり詳しいことを話している時間がない。でも、ファンタとクリスはこっちの世界に来ている。まずは今の状況を・・・。」 アクティーが話していると、アドリア軍の伝令が割り込むように現れ、戒人に耳打ちした。戒人は深刻な表情で話し始めた。 「今入った最新の情報だ。現在、アドリア海軍がアドリア海峡で交戦中。モンスターのアドリアシティ上陸も時間の問題。そのモンスターの一部がシュヴィに侵攻。 現在、アドリア海軍が追跡中。シュヴィの海岸でケバプ帝国の守備隊とエスタ共和国の援軍が戦闘中。そして、バルカンではロドリゲスと名乗る男が出現。以上だ。」 「俺はこれからレインに行く。」 そう言って立ち上がったのは英明だ。アドリアシティへの敵の上陸を許すとレインも危ない。そして、清和が言った。 「私は博光国王から航さんの代わりに池脇を守るように言われました。私も行きます。」 アクティーは思った。ロドリゲスは完全にこの世界の住民を巻き込んでいる。これ以上、この世界の住民に迷惑を掛けさせるわけにはいかない。 「ロドリゲスが出現・・・。」 ポーラがつぶやくと、アクティーは言った。 「ポーラ、俺はこれからロドリゲス・ブルクに行こうと思う。俺に考えがある。」 「一体、何を考えているの？」 ポーラの問い掛けにアクティーはポーラにだけ聞こえるように小声で答えた。 「それはあとで言う。とりあえず今は俺を信じろ。あと、例の設計図を見せた方がいいんじゃないのか。」 「あの、これは巨大飛行物体『ロドリゲス・ブルク』の設計図です。これを見て何かわかる方はいらっしゃいませんか？」 アクティーに言われて、ポーラは慌てて設計図を取り出した。藤田は答えた。 「これは岡さんの専門分野だな。原子炉を積んでいる。他にもいろいろ積んでいるな。エネルギーの供給源が複数あるようだが、恐れることはない。 出力の大きさを考えれば、原子力がメインエネルギーだ。原子炉さえ止めれば、あれは止まる。だが、この手の原子炉は止めるのが難しいかもしれない。 放射能漏れには十分注意する必要がある。専門知識がないと、ちょっとこれは危ないな。私が言えるのはここまでだ。」 ポーラは藤田に一礼した。藤田の専門は数学なのだが、工学の知識もなかなかのものである。 「例の巨大飛行物体に行かれるのでしたら、我々とレインまで一緒に行きましょう。」 アクティーとポーラは清和にそう言われたので、その言葉に従うことにした。４人はハヴェリの街を出発して、ローレシア遺跡に向かった。 アクティー、ポーラ、英明、清和の４人はローレシア遺跡を抜けて、レインに到着した。 レイン公国の大公屋敷に入ると、尻もちをついて、真っ青な顔で震えているヴェハーリがいる。英明はヴェハーリに駆け寄った。 「ヴェハーリ、どうしたんだ。」 英明の問い掛けにヴェハーリは指をさした。その先には騎士剣を持った男が立っていた。ラルタルである。英明は言った。 「誰だ！ヴェハーリに何をした！」 「私は何もしていない。ただ自分の名前を名乗っただけだ。周防経と。」 ラルタルの言葉に英明と清和は驚いた。周防経はレイン公国史上最強の騎士と呼ばれた、伝説的人物だからだ。 「確か３０年前に行方不明になっていた、翠騎士家の当主・・・。」 英明が漏らすと、ポーラが言った。 「私達の世界で総理になっていたの。ラルタル総理に。どうしてこちらに・・・。」 「ああ、君達か。私にもいろいろと過去があるのだよ。私は自分の気持ちに決着をつけるため、ここに来た。ところで安藤大公は留守かね。」 ラルタルの質問に英明は答えた。 「安藤さんは前大公だ。現大公は俺だ。」 「そうですか。それでは、お手合わせ願いましょう。４人まとめて、掛かってきなさい。」 ラルタルはそう言って、騎士剣を構え、英明に斬り掛かった。 「君達もロドリゲスさんを倒すつもりなら、私が倒せないといけない。」 ラルタルはアクティーとポーラにそう言うと、次々と攻撃気功を放った。 「上等だ。」 アクティーはラルタルに殴り掛かり、ポーラも武器を構えた。ラルタルは騎士剣を振り上げた。あの必殺技の構えである。 ラルタルは床に騎士剣を突き立てたが、前ほどの激しい衝撃は起きなかった。清和が結界を張っていたのだ。 「私もアドリア王族の血筋ですから、この技を防ぐ気功があることは知っています。習得に２年も掛かりましたが・・・。定在刃の使い手の棗さんの協力のおかげですよ。」 清和が言った。英明はラルタルに猛攻撃を仕掛けた。アクティーとポーラも負けてはいない。英明の必殺技を受けると、さすがのラルタルも倒れてしまった。 「レインの現大公よ。君は強い。若い頃の私は血気盛んで、なぜ自分は強いのに大公になれなかったのか、納得がいかなかった。 大公選に敗れた時は本当にショックで、気がついたら向こうの世界に来ていた。歳を重ねて、いくらか私も人間が丸くなったつもりだが、 このことは心のどこかで引っ掛かり続けていた。レインの騎士であることを忘れられず、いつも腰に騎士剣を差していた。 だが、今のレインの大公は私よりも強い。これで気持ちがすっきりしたよ。そして、君達も強くなった。これならロドリゲスさんに勝てるかもしれない。」 ラルタルは静かに言った。アクティー、ポーラ、英明、清和の４人はラルタルに一礼して、敬意を表した。ラルタルも騎士らしく、４人に敬意を表した。 「英明様、レインと池脇の住民の誘導は全て完了いたしました。」 今まで口がきけなかったヴェハーリが報告すると、英明は答えた。 「ご苦労だった。これで安心だ。俺達はこれから航と映明を助けるためにアドリアシティに向かう。ヴェハーリは周防さんを頼む。」 ４人はモンスターが次々と上陸するアドリアシティに向かっていった。 アドリアシティに到着すると、街の中はモンスターで溢れていた。アクティー、ポーラ、英明、清和の４人はモンスターを倒しながら、海岸の方に進んでいった。 「俺達はこれからロドリゲス・ブルクに向かいます。」 アクティーは英明と清和にそう言うと、ポーラと共にモーターボートに乗り込んで、青島(チンタオ)に向かった。 アドリア海峡はモンスターで溢れている。アドリア海軍の船上にいる映明は２人に気づいた。 「それでは道をあけませう。」 映明はそう言うと、気功を唱えてモンスターを倒し、モーターボートの通る道を切り開いた。航も続いた。陸上からは英明と清和も気功を唱えている。 アクティーとポーラは長男戦隊に感謝しながら、青島(チンタオ)に上陸した。 「俺はロドリゲス・ブルクを浮上させようと思っている。ロドリゲス・ブルクをこの世界から退去させるんだ。もうこれ以上、この世界の人達に迷惑は掛けさせない。」 ポーラはアクティーの言葉に少し驚いたが、深くうなずいた。 アクティーとポーラはロドリゲス・ブルクに突入した。設計図を持っている２人にとって、コクピットに辿り着くのは容易なことだった。そして、アクティーが言った。 「ロドリゲスはいないみたいだな・・・。とりあえずポーラ、ロドリゲス・ブルクを浮上させよう。」 「わかったわ。」 ポーラはロドリゲス・ブルク浮上のプログラムを作動させた。このような作業はポーラの得意分野である。 「問題はロドリゲスだな・・・。ちょっと人任せだが、この世界にはファンタもクリスも長男戦隊もいる。どうにかなるだろう。 ロドリゲス以上に恐ろしいのはロドリゲス・ブルクだ。プラズマ砲を搭載している以上は放置できない。浮上が終わったらロドリゲス・ブルクをこの世界から退去させて、 ポーラはまだロドリゲス・ブルクに残っていると思われるミハイル博士を連れて、ここから脱出してくれ。博士ならきっと何かしらの脱出方法を知っているだろう。」 ロドリゲス・ブルクは動き出した。だが、少し動いてアトランティス海の上空で止まってしまった。いやポーラが止めたのだ。ポーラは悟った。 アクティーは自分の命と引き換えに、このロドリゲス・ブルクを壊すつもりなのだ。 「どうしたんだ。何が起こったんだ、ポーラ。」 アクティーが尋ねると、ポーラは小さな声で言った。 「故障したのかな・・・。動かない・・・。」 ロドリゲス・ブルクのコクピットに沈黙が流れた。 |