第５章「本当の目的」


　ファンタがミハイル研究所のテレビをつけると、フィレフが映っていた。その横にはコミュンと治郎さんもいる。そして、その後ろには大勢の市民がいた。
「我々はロドリゲスの国家予算横領の決定的な証拠を入手した。国民のための政治をせず、国民の税金を横領するとは、全くもって国民を愚弄している。 我々は今の政府と決別し、新しい政府を作らなければならない。」
フィレフが演説すると、周りの市民が一斉に拍手した。次はコミュンが前に進み出た。
「我々は臨時政府を作ることにする。我々臨時政府が最初にやるべきことはロドリゲスを逮捕することだ。これがその逮捕状だ。」
コミュンがロドリゲスの逮捕状を見せると、これまた周りの市民が一斉に拍手した。ついに政府が崩壊したのだ。ファンタはそのテレビ放送に見入っていた。

　その頃、アクティー、ポーラ、クリスの３人はリミアの町のミハイル研究所に到着した。３人は研究所に入ろうとしたが警備員がいる。 身分証明書がないと中に入れないらしい。おまけにその警備員をよく見るとタックルだった。
「何でこのおっさんはこうも俺達の前に現れるんだ。また強行突破か。」
アクティーはそう言うと、ポーラ、クリスと共にタックルの前に進み出た。
「おっさん、またやられたくなかったら、道をあけた方が身のためだぜ。」
アクティーの言葉にタックルは笑って答えた。
「わしは東部総督を失職してからは国営警備会社に勤めているのだ。その仕事柄、通すわけにはいかん。アクティー、また会えて嬉しいぞ。おい、ＩＴ３を出せ。」
そして、またＩＴが出てきた。今回のＩＴは今までと比べると、ずいぶん作りが簡素である。
「タックルは俺が仕留める。ＩＴ３を頼む。」
アクティーはそう言って、タックルに殴り掛かった。戦いは続いた。だが、今回は珍しくポーラがＩＴ３との戦いに苦戦していた。
「ポーラ、今日はどうしたんだ。得意の科学の知識で、早くＩＴ３を倒してくれ。ＩＴ３が倒されないうちに、このおっさんを倒すのはちょっと厳しい。」
アクティーが問い掛けると、ポーラが答えた。
「今回のＩＴは半導体がほとんど使われていない。歯車とかの機械で動いているのよ。電気も熱もあまり効かないわ。」
「どうだ、今回のＩＴは本当に凄いだろう。シンプルイズベストだ。」
タックルがそう言うと、ポーラの前にクリスが進み出た。
「私に任せて。」
クリスは素早くＩＴ３に近づいて、何かをやった後、ポーラの横に戻ってきた。しばらくするとＩＴ３の動きが止まった。
「クリスさん、一体何を・・・。」
ポーラが尋ねると、クリスが答えた。
「ちょっと硝酸を使って、機械を溶かしてきたのよ。たったあれだけの量の硝酸を使っただけで、止まるとは思わなかったけど。」
アクティーはタックルを取り押さえていた。
「おい、中を案内しろ。研究所の中を俺達だけで歩くのは危険過ぎるからな。」
ポーラはタックルの体に銃を突きつけ、クリスはタックルの目の前に硝酸入りの試験管を突きつけた。タックルは言われたとおり、案内するしかなかった。

　タックルの案内でアクティー、ポーラ、クリスの３人はミハイルの研究室に辿り着いた。そこには研究室でテレビを見ているファンタがいた。 しかし、３人はファンタに声を掛ける前にテレビの放送内容に見入ってしまった。
「フィル兄達、成功したみたいだね。」
ポーラが言った。そして、アクティーが強い口調でファンタを問いただした。
「ファンタ、今まで何をしていたんだ。」
「アクティーさん、落ち着いて。まずは私達が今まで何をしてきたかを話すから。」
クリスはそう言うと、革命までの経過を話した。続いてファンタがミハイルとの会話を話すと、３人は驚いた。 ロドリゲスは元は侍リングワールドの住人だった。さらに人工浮遊大陸を作ろうとしている。ロドリゲスは一体、何を考えているのか。
「政府は終わってしまったのか・・・。」
４人の横でタックルが弱々しくつぶやき、座り込んだ。アクティーがタックルに言った。
「そうだ、政府は終わった。おっさんが励んできた政府内部の権力闘争はもうできないってわけだ。」
「何か始めたら。例えばパソコンとか。私が教えようか。まずはマウスの動かし方からかな。」
ポーラがそう言うと、タックルは立ち上がった。
「そうか、パソコンか。よし、ＩＴ４は人に頼まないで、わしがパソコンを使って設計するぞ。でもその前にゴルフだな。」
タックルはゴルフの素振りの真似をして、研究所を出て行った。タックルはずいぶん気持ちの切り替えが早い。もうタックルと戦うことはないだろう。 ４人もタックルに続いて研究所を出ると、研究所の前にティーナが待っていた。ティーナは４人に近づくと、２枚の書類を取り出して言った。
「バルディから君達にこれを渡すように頼まれたの。」
そのうちの１枚はロドリゲスの逮捕状。そして、もう１枚はアクティー達４人を臨時政府の特別警察に任命し、ロドリゲスを逮捕する権限を与えるというものだった。 アクティーは今までは政府に自分が逮捕される立場だったのが、今度は自分が政府の実力者を逮捕する立場になったのだ。
「ブルクに行きましょう。何を考えているのかはよくわからないけど、ロドリゲスは何かを企んでいます。それを阻止するために。」
ファンタが言うと、ポーラが続けた。
「ラルタル総理のことも気になるしね。」
「あの人は国のことしか考えていない・・・。あまり無理をしていなければいいけど・・・。」
ティーナがつぶやくと、クリスが言った。
「家族が離れ離れにならず、平和に暮らせる世の中を作りましょう。私達のような思いを、もう子供達にはさせたくありませんから。」
クリスの言葉を聞いて、ティーナは大きくうなずいた。
「よし、ブルクに行って、ロドリゲスを逮捕するぞ！」
アクティーは叫んだ。４人はロドリゲスのいるブルクに向かって西に進んでいった。

　リミアからブルクまでの道のりは険しかった。ブルクに至るまでの道のりは森を抜け、山を越え、洞窟を通る、その繰り返しであった。ブルクは天然の要害である。 だからこそ歴代の政府は、このブルクに軍の基地を置いたのだろう。そして、やっとブルクが見えてきた。ブルクには警備兵が誰もいない。 兵士達も政府を見限ってしまったのだろう。ロドリゲスを探して、放たれているモンスターと戦いながら、ブルクの奥深くに進むと、ラルタルの声が聞こえる部屋がある。 話している相手はロドリゲスであろうか。４人がその部屋に入ろうとすると、目の前に突然、モンテルが現れた。
「兄者は今、大事な話をしている最中だ。」
モンテルはそう言うと、４人に襲い掛かってきた。モンテルの髪の毛は、もう元の長さに伸びていた。 モンテルは確かに強いが、４人も今までの戦いで鍛えられてきたので、十分、互角に戦えた。
「兄者の計画を誰にも邪魔はさせない。」
モンテルはムックの力を使って、次々とモンスターを作り上げた。モンテルは必死の形相だった。今回ばかりはモンテルにも疲れが見えた。
「そこまでして一体、何のために何をやろうとしているの！やっぱりお兄さんのためなの！」
ポーラは同じ兄を持つ者として、モンテルの心中が気になった。
「我々兄妹がムックとして生まれたために、今までどんな仕打ちを受けてきたか、お前らにはわかるまい。 この計画は我々兄妹が３０年前から考えていたものだ。兄者はＡＢＥ様のご意志を継いで、ついにこの計画を実行に移されるのだ。 兄者は侍リングワールドの支配者となる。そして、私はこの世界の支配者となる。我々ムックが全ての世界を支配するのだ。」
モンテルが叫ぶと、クリスは言った。
「もうこの世界はあなたのものにはならない。この世界は今、確実に変わっている。あなたがどんなに強くても、この流れを止めることはできない。」
「そうだ。この世界は変わる。そして、ロドリゲスの野望を砕く。」
アクティーはそう言って、モンテルを攻撃した。ポーラ、ファンタ、クリスもアクティーに続いて、モンテルを攻撃した。４人の猛攻を受けたモンテルは倒れてしまった。

　４人は部屋の中に入った。部屋の中にはラルタルとロドリゲスと思われる男がいた。ロドリゲスは５０歳くらいのはずだが、見た目は３０代である。 やはり髪の毛は異様に長い。４人は倒すべき相手を初めて見た。そして、ついにロドリゲスが口を開いた。
「定子・・・いやモンテルを倒したのか。」
「ああ、このおばさんのことか。」
アクティーはそう言うと、一気に老けたモンテルをロドリゲスの前に差し出した。
「ムックの力を使い過ぎたな。これでは元に戻るのに１年近く掛かる・・・。」
ロドリゲスはそう言うと、モンテルを抱きかかえて、アクティー達に背を向けた。
「ラルタル総理。私は総理の言うとおり、この世界の政治からは手を引く。もうこの世界の変化の流れには逆らえそうもない。 手を引くにはちょうどいい頃合いだ。どれ、私はこれからミハイル博士のところに行って、例の計画を実行に移すとしよう。 あとは・・・定子の敵を取ってもらえないだろうか。ラルタル総理、いやレイン公国史上最強の騎士・周防経！」
ロドリゲスはラルタルの方を少し見ると、モンテルを抱きかかえたまま、部屋から出て行ってしまった。
「レイン公国史上最強の騎士・周防経。確かレイン公国の大公選挙で安藤さんに敗れた後、行方不明になっていたあの・・・。」
ファンタがつぶやくと、ラルタルが言った。
「そうだ。私は周防経だ。私はできるなら君達とは戦いたくなかったが、ロドリゲスさんが何を考えているのか、わからない以上は命令に従わなければならない。 だから私は君達と戦わなければならない。私は君達の命を取るようなことはしない。だが、騎士道精神に乗っ取り、全力で戦わせてもらう。」
ラルタルはそう言うと、騎士剣を抜いた。その騎士剣はあまり手入れがされていないようである。騎士剣を抜いたラルタルは目つきが変わっていた。 ラルタルは気功を４人に向けて放ったが、それは回復気功だった。
「さあ、全力で掛かってこい！」
ラルタルが叫ぶと、騎士剣を構えた。
「強いぞ。本当に強いぞ。」
アクティーはつぶやいた。回復気功の威力が尋常ではなかったからだ。モンテル戦での疲れが一気に吹き飛んでしまった。 しかし、それは同等の威力の攻撃気功も唱えられることを意味していた。そして、ラルタルは攻撃気功を唱えた。
「歳は重ねたが、気功の力は衰えていないようだ。」
ラルタルはそう言うと、次々と攻撃気功を唱えた。やはりラルタルは強かった。その強さはムックであるモンテルよりも上であろう。 ラルタルの攻撃気功が強過ぎて、４人はラルタルに近づくことすらできない。４人は次第に疲れていった。その時、けたたましい轟音と共に足元がぐらついた。 そして、上から下に激しい力が掛かった。窓の外に目をやると、ブルクが街ごと空に浮いているのがわかる。４人は驚きのあまり言葉が出ない。
「まだ戦いは終わっていないぞ。」
ラルタルは騎士剣を振り上げて言った。
「レインの騎士家とアドリアの王族の血を引く者しか使えない技を見よ。」
ラルタルは床に騎士剣を突き立てた。部屋中に激しい衝撃が走り、その衝撃を受けた４人は気を失った。

　ブルク浮上の様子は首都フラテスからも見てとれた。ブルクの下部には大量の機械が取り付けられており、エスタ科学党のシンボルの三角フラスコが描かれている。 ブルクの上部には巨大な受信アンテナや太陽電池パネル、発電用風車などが備え付けられていた。浮上を終えたブルクは、けたたましい騒音と共に動き出した。
「ブルクが浮いている・・・。ロドリゲスは一体、何を考えているんだ。もしかしたらポーラもあの中に。」
フィレフがそう言って、飛び出そうとするのをコミュンが止めた。
「今、フィレフが動いてしまうと国民の士気が低下する。それにまだ政府軍の残党がいないとも限らない。我々がここで我慢しなければ、革命は頓挫してしまう。 あれはアクティー君達に任せるしかない。彼らを信じよう。」
コミュンの言葉で、冷静になったフィレフはこらえた。
「あれは僕が侍り星人と共に追うよ。」
治郎さんはそう言うと、テレビ局を飛び出して、侍り星人の宇宙船に乗り込み、浮上したブルクを追った。追跡を始めて、しばらくした後、侍り星人が言った。
「あれは間違いなく侍リングワールドに向かって進んでいる。」
「そうか。よし、ハヴェリの街に行って、早くみんなに知らせよう。」
治郎さんの言葉を受けて、侍り星人は宇宙船をハヴェリの街に着陸させた。

　その頃、気を失ったアクティー、ポーラ、ファンタ、クリスの４人は、ようやく目を覚ました。
「やっと目を覚ましたか。」
４人の目の前には騎士剣を収め、冷静になったラルタルがいた。
「どうやら侍リングワールドに近づいているみたいだぞ。」
ラルタルに言われて、４人は窓の外を見た。侍リングワールドが見える。浮遊大陸であるアトランティス大陸も見えていた。 しかし、その瞬間、アトランティス大陸は激しい光と共に粉々に崩壊、消滅してしまった。
「プラズマ砲！」
ポーラが叫んだ。アトランティス大陸をプラズマ砲で破壊した浮上ブルクは、徐々に高度を下げていった。 そして、アドリア王国の港町・青島(チンタオ)とゴンドワナ砂漠の間にある草原に着陸した。
「このことを早くハヴェリの街にいる、みんなに知らせましょう。」
ポーラが言うと、ファンタが口を開いた。
「いや、地理的に考えて、ここからハヴェリの街は遠い。それよりも南のゴンドワナ砂漠を越えて、ケバプシティに行った方がいい。 ケバプシティに行けば、おそらくケバプハカセはサミットから帰っている。ケバプハカセだったら、きっと僕達を助けてくれるはずだ。」
侍リングワールドの地理や情勢に最も明るいのはファンタなので、アクティー、ポーラ、クリスはファンタの意見に従うことにした。４人は立ち上がった。
「行くのか。ロドリゲスさんを倒すために。ロドリゲスさんは私より強いぞ。」
ラルタルの言葉に４人は強くうなずいた。
「ところでラルタル総理は、これからどうなされるのですか？」
クリスが尋ねると、ラルタルは答えた。
「私か。こういう状況になってしまったら、君達と戦う理由もない。どうしようかね。」
４人はラルタルに一礼して、南のゴンドワナ砂漠に向かって進んでいった。ラルタルは４人が見えなくなった後、反対の北に向かって進んでいった。

　一方、ロドリゲスは宣戦布告文を電波に乗せて、発信し続けていた。
「私はＡＢＥ様のご意志を継ぐ者だ。この世界にＡＢＥ様の夢だった大ムック国を建設する。私もあまり手荒な真似はしたくない。素直に国を明け渡して欲しい。 もしそれができないのであれば、最悪の場合はアトランティス大陸と同じ目に遭うことになるだろう。もう一度繰り返す・・・。」
ロドリゲスの目的は全世界征服ではなく、侍リングワールドのみの征服だった。アクティー達の世界で権力を握り、国家予算を横領して、巨大兵器の浮上ブルクを作らせる。 ロドリゲスにとって向こうの政府は、この侵略のための巨大兵器ができるまで、もってくれればよかったのだ。 そして、ハヴェリの街に到着した治郎さんは、この宣戦布告文が乗った電波を研究所で受信した後、サミット会場に駆け込んだ。 そこでは長男戦隊やレイン公国のヴェハーリ、エスタ共和国の岡と藤田、アドリア王国の博光と戒人、それに熊蔵による緊急対策会議が開かれていた。 アクティー、ポーラ、ファンタ、クリスと長男戦隊達は、どのような方法でこの巨大兵器と戦うのだろうか。舞台は侍リングワールドに移る。


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