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第４章「政府崩壊」 アクティー、ポーラ、ファンタ、クリスの４人はコミュンと共に、いったんコミュン島に戻った。反政府軍指導者を助けた４人は反政府軍の英雄になってしまった。 そして、あらためてフラテスに向かって船を出航させた。船は運河に入り、フラテス近郊に到着すると、コミュンは４人を降ろして、ポーラに話し掛けた。 「お兄さんは今、どこにいるのかね？」 「カウラーの街の郊外にかくまわれています。」 ポーラが答えて、侍り星人の基地の場所を教えると、コミュンは言った。 「そうか。私はこれからカウラーの街に行って、お兄さんに会いに行こうかな。もう何年も会っていないからね。 本当は私もラルタル総理に会いたいのだが、このタイミングで反政府軍指導者が首都に入るのは、総理に迷惑が掛かる。」 コミュンはそう言うと、船を出航させた。４人は首都フラテスに入り、官庁街の方に向かった。 首都フラテスの官庁街は政府軍壊滅の対応に追われていた。４人は官庁街を抜けて、総理公邸に到着した。 そして、バルディ・シューヴォの名前を出すと、あっさり中に通してくれた。公邸内で待っていると、総理のラルタルが女性と一緒に現れた。 ラルタルは腰に騎士剣を差していて、歳は４０代半ばくらい、女性の方は３０歳くらいだろうか。 「さて、どんな用件かな。バルディ・シューヴォの名前を出したということは、だいたい用件は想像できるが。」 ラルタルは言った。４人の中で最初に口を開いたのはファンタだった。 「ダロの収容所のパオの村人達の件、ありがとうございます。収監室の衛生状態が良かったおかげで、みんな健康でした。」 「収容所の衛生状態を保つのは当然のことだろう。」 ラルタルは答えた。収容所の衛生状態に気を配っていたのはラルタルだったのだ。クリスはその答えに疑問を持ち、立ち上がって言った。 「それでは、なぜパオの村人達を捕まえたのですか？収容所の衛生状態に気を遣うような方がなぜ。」 クリスの意見はもっともだ。ラルタルは強い口調で言った。 「ロドリゲスさんからの指示は絶対だ。どのような内容の指示でも絶対に従わなければならない。」 やはりロドリゲスが実権を握っているのだ。現職総理のラルタルでもロドリゲスには逆らえないのか。アクティーは言った。 「ラルタル総理、俺達に協力してください。総理もロドリゲスのことはよく思われていないのではないでしょうか。総理の協力が得られれば、ロドリゲスを倒せます。」 「やはりそういう用件か。しかし協力と言っても、どうやって協力しろというのだ。まさか力づくでロドリゲスさんを倒そうと思っているのか。ロドリゲスさんは強い。 君達が束になったところで到底かなう相手ではない。私一人が協力したところで仕方がない。君達が協力を求めるべき相手は他にいるはずだ。」 ラルタルは言った。ポーラはラルタルの言葉の意味を理解したらしく、こう言った。 「ラルタル総理、政府は収入の割に支出が極端に少ないですよね。そのようなことが詳しく載っている資料はありませんか？」 「君は私の話すことの意味がわかったみたいだな。私も今まで我慢してきた甲斐があったというものだ。」 ラルタルはそう言って、隣の女性に大量の資料を持ってこさせた。そして、立ち上がって部屋を出ようとした。 「どこに行かれるのですか。」 クリスが尋ねると、ラルタルは答えた。 「ブルクだ。ロドリゲスさんと話をしてくる。ティーナ、君を総理臨時代理に任命する。この国を終わらせてくれ。」 ラルタルはティーナと呼ばれた女性にそう言うと、部屋から去っていった。 「この国をついに終わらせることができるのね。これで家族が離れ離れにならず、平和に暮らせる世の中ができるかも。」 ティーナがつぶやくと、ポーラが話し掛けた。 「失礼ですが、あなたは一体・・・。」 「私は一応、総理夫人よ。あとは反政府軍指導者コミュンことバルディの姉でもあるけどね。」 ティーナが答えると、４人は少し驚いた。そして、クリスが言った。 「家族が離れ離れにならず、平和に暮らせる世の中・・・。そうなって欲しいです・・・。」 「私も弟のバルディも孤児。だから孤児の気持ちはよくわかる。」 ティーナがそう言って立ち上がり、部屋を出るとティーナの周りに子供達が集まってきた。この子供達は孤児なのだろう。４人は総理公邸を出た。アクティーは言った。 「ポーラ、一体、何を考えているんだ。」 「これでフィル兄の計画は成功する。みんな、カウラーの街に行きましょう。詳しくはそこで話すから。 首都フラテスとカウラーの街って山一つ隔てた隣町なのよね。行くのにそんなに苦労はしないはずよ。」 ポーラがそう言うと、ファンタが突然、口を開いた。 「あのさあ、ちょっとの間だけ、みんなと別行動させてもらえないかな。首都フラテスの北のリミアの町に僕の知り合いがいるんだよ。会いに行かせてくれないかな。」 ３人は駄目とは言えず、ファンタは一礼すると、リミアの町に向かって走っていった。 アクティー、ポーラ、クリスの３人はカウラーの街に向かって山を登っていた。口には出さないものの、３人はファンタのことが気になっていた。 ファンタは今まで一緒に戦ってきた仲間である。しかし、最初は別の世界にいたし、政府内部の事情には詳しいし、謎の多い男でもある。 まさか裏切るのではないか、そのような思いが頭の中をよぎるのを３人は打ち消そうと必死だった。山を登り終えると、カウラーの街が見えてきた。 ３人が侍り星人の基地に入ると、フィレフ、治郎さん、侍り星人達、コミュンが迎えてくれた。フィレフが言った。 「みんな、ラルタル総理に会いに行ったんだって。バルディ君から話は聞いたよ。あれっ、一人いないみたいだけど・・・。」 「ちょっと用事があるんだって。それよりフィル兄、これを見て。」 ポーラはファンタのことを突っ込まれたくなかったので、話題を切り替えて、ラルタルからもらった資料をフィレフに見せた。 フィレフは目の色を変えて、その資料に見入った。そして、叫ぶように言った。 「これは凄いよ、ポーラ。これで僕の計画は成功に相当近づいたよ。」 「さすがラルタル総理。この日が来ることを見越して、資料を用意しておくとは。ロドリゲスに逆らわなかったのも総理の地位を維持しないと資料が確保できないから。 そして、国民の生活を守ることができないから。実に深い考えの持ち主なのだよ総理は。」 コミュンが言った。アクティーとクリスはラルタルの深い考えに驚くばかりだった。ただのロドリゲスの言いなり総理ではなかったのだ。 「問題はロドリゲスだ。ファンタ君の情報によると、どうやらロドリゲスは人間ではないらしい。奴に暴れられてしまうと・・・。」 フィレフがつぶやくと、ポーラが言った。 「ラルタル総理がロドリゲスを説得するためにブルクに行きました。」 「ラルタル総理を信じよう、フィレフ。ラルタル総理は強い。総理ならきっとやってくれる。」 コミュンがそう言うと、フィレフは大きくうなずいて叫んだ。 「これから作戦を決行する！その内容はこの資料を国民に見せて、一気に革命に持っていくことだ！」 ラルタルが言っていた協力を求めるべき相手とは、国民のことだったのだ。 フィレフは分担を決めた。シロヤマは有名人のアクティー。ヤパノはフィレフ、ポーラ兄妹。ダロとパオはコミュン。 ケープは薬剤師として、村人達の尊敬を集めているクリス。侍り星人は移動を手伝い、治郎さんは基地の留守を守ることになった。 これらの地方都市が終わった段階で、その勢いを背景に首都フラテスの国営テレビ局を占拠、テレビを使って、カウラーやリミアといった首都圏を抑える作戦だ。 革命の志士達は宇宙船に乗り込んで、それぞれの担当場所に向かった。作戦は順調に進んだ。情報封鎖社会で情報が公開されることの意味は大きかった。 アクティーは久しぶりに帰ったシロヤマの町で、その資料を町の人達に見せて、ロドリゲスの今までの悪事を説明した。 その内容はロドリゲスが総理になってから現在に至るまで、相当な額の国家予算を横領し続けたというものだ。それはロドリゲスのサイン入りの確かな資料だった。 昔のアクティーは力づくで政府を倒そうと思っているだけだったが、今は言論によって政府を倒そうとしており、それが達成できそうなのである。 ヤパノの街でも作戦は順調に進んでいた。フィレフはヤパノ大学の講師であるため、人に説明するのは得意中の得意である。 そして、コミュンはダロでの活動を終え、パオに向かっていた。ダロは政府軍関係者の街の色彩が強かったので、政府軍が壊滅した現在では人口が激減していた。 パオの村も反政府の考えを持つ人が大多数を占めていたので、難なく作戦は成功した。さらにコミュンはファンタの情報も村人から入手した。 コミュンはフィレフからパオの村でファンタのことを調べるように頼まれていた。やはりフィレフはファンタのことを疑っていたのだ。 ケープの村でも作戦は順調だった。クリスは薬剤師として、村人達の尊敬を集めていたため、クリスの言葉を疑う者はいなかった。 クリスは晴れ晴れとした気持ちだった。自分達が動くことで、世界は大きく変わろうとしているのだから。 それぞれの仕事が終わると、カウラーの街に戻り、作戦の成果を報告した。フィレフは次の作戦を話した。 「よし、次は首都フラテスの国営テレビ局の占拠だ。国民みんなの力は何よりも強い。必ず成功する。 テレビ局の占拠が成功したら、バルディ君が臨時政府を作ることになっている。そして、ロドリゲスを政権の座から引きずり降ろす。さあ、フラテスに行こう。」 フィレフが立ち上がると、コミュンが口を開いた。 「出発する前にみんなに言っておきたいことがある。ファンタ君のことだ。ファンタ君が何で治郎さんの世界にいたのかは結局、わからなかった。 でもこれだけはわかった。ファンタ君は行方不明になる３年前まではリミアのミハイル研究所の研究員だったということだ。 ミハイル研究所は天才ミハイル博士が所長を務める研究所だけあって、そこの研究員になるのは大変名誉なことだ。 だからファンタ君は若干１４歳でパオの村の名誉村民になっている。しかし、ミハイル博士はロドリゲスとは親しい間柄・・・。」 このコミュンの話で、ファンタが何で政府内部の事情に詳しいかはわかった。しかし、かえってファンタに対する疑いは深まってしまった。 「私、リミアに行きます。ファンタさんはリミアの町の知り合いに会うと言って、私達と途中で別れました。今の話からするとミハイル博士に会いに行ったのだと思います。 きっとファンタさんは何か考えがあって私達と別行動を・・・。ファンタさんは絶対に裏切ったりしません。」 クリスが言った。アクティーとポーラもそう思いたかった。 「わかりました。クリスさんはアクティー君とポーラと一緒にリミアに行ってください。僕もファンタ君が裏切ったとは思いたくない。」 フィレフはそう言うと、宇宙船を出発させた。そして、首都フラテスの広場に着陸した。政府は崩壊寸前というのに、この首都フラテスに大きな混乱は見られない。 これも孤児の面倒をみたりと、街の人達に尊敬されているティーナが総理臨時代理を務めているからなのだろう。 フィレフを先頭に国営テレビ局のある首都フラテスの中心に進むと、ティーナが現れた。 「バルディ、フィレフ君、今までよく頑張ったね。」 ティーナはそう言うと、剣を抜いて、クロムックのシルエットが描かれたロドリゲス政権の国旗を斬りつけた。 「この国の悪しき政治は終わりました。私はこの国の政権をあなた方に譲ります。」 「わかりました、ティーナ先輩。家族が離れ離れにならず、平和に暮らせる世の中を必ず作ってみせます。」 フィレフはそう言って、コミュン、治郎さん、ティーナと一緒に国営テレビ局へ向かって進んだ。 アクティー、ポーラ、クリスの３人はそれを見送ると、首都フラテスを出て、リミアの町に向かった。 ３人と別れたファンタは予想どおり、リミアの町のミハイル研究所に来ていた。ミハイル研究所の警備員に身分証明書を見せると、ファンタは研究所の中に入った。 「ミハイル博士、お久しぶりです。ファンタが帰ってきました。」 ファンタは研究室で研究を続けている６０歳くらいの男に声を掛けた。ミハイルの研究の手が止まった。 「ファンタ君。本当にファンタ君なのか。ああ、確かにファンタ君だ。今までどうしていたんだ。」 「３年前、侍り星人の宇宙船にちょっとした好奇心で乗り込んでしまいまして、そうしたら侍リングワールドという世界に行ってしまい、帰れなくなってしまったのです。 その間、ケバプハカセという素晴らしい方にお世話になっていました。そして、やっと侍り星人の宇宙船に乗る機会を得て、こうして帰ってこれたのです。 侍リングワールドの生態系は、こちらの世界とはずいぶん違っていて、いい勉強になりました。」 ファンタは言った。ミハイルは無言である。好奇心の塊のようなミハイル博士が別の世界に興味を示さない。ファンタは間違いないと思った。 「僕は侍リングワールドの歴史についても調べました。博士は元は侍リングワールドの人間だったのですね。 侍リングワールドのエスタ共和国にエスタ科学党という非合法団体があったそうです。その団体は三角フラスコを旗印としていました。 この研究所のシンボルも三角フラスコです。博士はエスタ科学党の一員だった・・・。」 ファンタが言い終わらないうちにミハイルは答えた。 「そうだ。私は旧エスタ科学党技術者・茶臼振博士だ。私は子供の頃から科学研究が大好きだった。しかし、当時のエスタは科学研究をするのに国の許可が必要だった。 私は自分の研究が国に管理されるのが嫌だった。だからエスタ科学党に入った。ここでは研究の自由が保証されていた。 ところが状況は変わった。革命により科学大臣だった岡が大統領になってしまったのだ。これでは我々は捕まってしまう。 そのような時に我々を助けてくれたのが、当時エスタ科学省の官僚だったロドリゲスこと阿倍定一と、その妹で当時エスタ陸軍少佐だったモンテルこと阿倍定子だった。 ２人は我々に別の世界に逃げることを勧めた。阿倍定一は我々に多額の資金を援助してくれた。 我々はその資金で原子力潜水艦を作って、その潜水艦でこの世界にやって来たのだ。我々は名前を変えた。 そして、ロドリゲスとなった阿倍定一はクーデターを起こして、この世界の総理にまでなった。おかげで私は自由に自分の研究ができるようになったのだ。」 「ロドリゲスは国民をあまりにも苦しめ過ぎました。博士の研究は結局、ロドリゲスに利用されているだけです。 博士が今まで研究し続けてきたプラズマ砲だって、ロドリゲスの全世界征服の野望の達成のために使われるだけなんですよ。 僕の予想ではロドリゲスが横領した国家予算の大半がこの研究所に流れているはず。プラズマ砲を積んだ人工衛星ができれば、全世界征服の達成は確実です。」 ファンタが言うと、ミハイルは答えた。 「私は科学者だ。政治のことはよくわからない。科学者にとって一番の幸せは自由に自分の研究ができることだ。 自由に自分の研究ができないことが科学者にとってどんなに辛いことか、ファンタ君だったらわかるだろう。」 ファンタも科学者である。ミハイルの言うことはよくわかった。その時、電話が鳴った。ミハイルが受話器を取り、電話での会話が終わると、ファンタに言った。 「これからブルクに行ってくる。私の最大の研究だった人工浮遊大陸の実験の準備が整ったそうだ。」 ミハイルはそう言いながら、走るように部屋から去っていった。 「(人工浮遊大陸・・・ロドリゲスは何の目的で博士にそんな研究をさせているのだろうか・・・。)」 ファンタは疑問に思い、研究室中の資料をあさったが、何もわからなかった。疲れたファンタは研究室のテレビをつけると、その放送内容に驚いた。 |