第３巻「アドリアの巻(下)」


　英明、清和、フレイ、戒人は奮戦の末、アドリア城の玉座に到達した。そこにいたのは強制収容所の塔から逃げた、悪の化身であった。
「こんなに簡単にアドリア城を制圧できてしまうなんて、アドリア兵の何と弱いこと。そして、愚かなこと。下々の者はわらわの前にひれ伏しなさい！」
「ロンドゥバロ村に加えて、ツクヴァ南方の塔と、我々の兵力を分散させた上で、アドリアシティに近い教会に拠点を築き、この機会を狙っていたということか！ それを最初に見抜けなかった僕は確かに愚かだ。だが、果敢に戦っているアドリア兵を侮辱することは許さん！」
戒人が悪の化身に攻撃を加え、英明、清和、フレイも続く。激しい戦闘になるが、そこに航、映明、熊蔵、ツヴァイが合流した。
「あれは悪の化身。戒人宰相も戦っておられる。我々も加勢しませう。」
映明が加勢しようとすると、悪の化身は本気モードになったのか、さらに激しい攻撃を浴びせてきた。清和が気功で防ぎ、フレイが火消ししても、全く追いつかない。
「くそっ。私の他にも気功士がいれば、抑え込むことができるのに。」
清和の言葉を聞いて、航がツヴァイを見ながら言った。
「君はネジョ村出身で、気功は得意と言っていなかったと。清和を助けて欲しいばい。」
ツヴァイが躊躇していると、さらに英明が叫んだ。
「レイン・ネジョは気功士の村だ。それが君の特技なら、ここで使って欲しい。俺達を・・・いやアドリア王国と戒人宰相殿を助けてくれよ！」
「わかりました。剣技は不得手ですが、気功ならば・・・いくらかはお役に立てると思います。」
ツヴァイが気功を使うと、悪の化身の身動きが止まった。そこに乱入してきたのは洋と佑馬で、悪の化身は佑馬の刀技を浴び、断末魔を上げて消滅した。
「最後の一撃くらいは戒人宰相殿に譲って欲しかったな・・・。」
英明は漏らすが、途中から参戦した佑馬は状況が飲み込めない。すると戒人が拍手をしていた。
「これでアドリア城奪還の目的を達成した。最後に誰が敵を倒そうが、大きな問題ではない。君達には感謝の言葉しかない。本当にありがとう。 それにアドリア兵の力も見せることができて、僕は本当に嬉しい。ツヴァイ、素晴らしい気功だったよ。」
おいしいところを佑馬に持って行かれたものの、強制収容所は壊滅し、アドリア城は解放された。その間、カジノでパチンコをしていたらしい、博光国王も城に戻った。 戻った直後の第一声は「セーブするかい？」だったそうだが、これがゲームならば、悪の化身と戦う前に言って欲しいものである・・・。

　悪の化身が倒されて、解放されたアドリア城は祝賀ムードに包まれたが、孝允の行方は知れない。今後の方針について、戒人は長男戦隊と藤田に話し始めた。
「孝允長官はアドリア海軍にて捜索中ですが、南方から襲来するモンスターに妨害され、計画どおりに進んでいないのが正直なところです。 オイハマ周辺は南からの海流の流れが強くて、特に強力なモンスターが多く、棗中佐でも苦戦しています。まずはモンスターを何とかしなくては・・・。」
「戒人宰相殿、エスタ共和国でも南方からのモンスター襲来は問題になっている。岡大統領はケバプ帝国の関与を疑っているが、貴国は情報をお持ちではないか？」
藤田が問い掛けると、戒人は答えた。
「以前にケバプからの使者を名乗る２人組がやって来て、孝允長官と応対したことがあります。親書にはアドリア王国と連携して、モンスター対策を進めたいとありました。 ただし、彼らの髪型が異様・・・は問題ではなくて、内情もわからない国と安易に同盟は結べないですし、モンスターが溢れるゴンドワナ砂漠を越えられるとは、 ケバプ帝国がモンスターをコントロールしているのではと疑ってしまい、返事を保留にして、使者に帰ってもらったことがありました。」
「ケバプ帝国か・・・。侍リングワールド南部を支配しているとの噂の・・・。」
英明が口を開いた。この世界では有名な話であるが、ケバプという人物が治めている以上のことはわからず、ケバプを皇帝に見立て、ケバプ帝国と呼ばれていた。 すると戒人は何かを思い出したように席を立ち、２枚の書類を博光国王の御前に差し出した。博光国王は内容も読まずに印を押す。戒人が説明を始めた。
「これはアトランティス大陸浮上の伺い書で、こちらはハヴェリの地学研究員の治郎さん、こちらはオイハマの共同研究者の中野氏から提出されたものです。 治郎さんの見解では、アトランティス大陸を浮上させると、海流の流れが変わり、オイハマ周辺のモンスターの出現率を下げることができるとあります。 それに大陸浮上が成功すれば、科学技術力の誇示により、ケバプ帝国を威圧できます。清和公使は治郎さんに、映明君は中野氏に、この書類を届けてください。」
「悪い作戦ではない。環境に予期せぬ影響がないかは少し心配だが・・・。」
藤田は若干の懸念を示したが、主だった反対意見はなく、治郎さんに書類を届ける清和には英明、航、佑馬が同行して、陸路にてローレシア遺跡経由でハヴェリを目指し、 中野に書類を届ける映明には洋が同行して、ゴンドワナ砂漠の視察を希望する藤田も加わり、青島(チンタオ)に立ち寄った後、棗の船でオイハマを目指すことになった。 ちなみに熊蔵は姿をくらましていたが、神出鬼没はデフォルトなので、特に気には留めず、それぞれの目的地に向かって出発した。

　英明、航、佑馬、清和はアドリアシティの西のローレシア遺跡に入った。多くの遺構が残されており、かつて栄えた古代ハヴェリ文明の大きさを知ることができる。 洞窟を抜けるとハヴェリの街も近いが、横からモンスターが襲ってきた。よく見るとモンスターの後ろには人がおり、モンスター同士を人間が戦わせているらしい。 どうにか洞窟の出口に到達すると、そこには薄っぺらい蟹のようなモンスターが現れた。ハサミを振り下ろすと、岩が粉々に砕け散る。佑馬が叫んだ。
「なかなか格好良いから、捕まえようぜ！ペットにするなら、熊蔵なんかよりも、こっちの方が断然良い！」
「何を言っているんだ。純粋な攻撃力だけなら、最強クラスのモンスターだぞ。油断せずに心して掛かろう。」
英明が冷静に突っ込む。物理攻撃勝負にならないよう、航と清和が気功でサポートしつつ、英明が気功と組み合わせた槍技を繰り出し、何とか倒すことができた。 某蟹(仮称)は英明に降参したようで、佑馬は捕まえるチャンスと思ったが、他の３人に制され、ハヴェリの街に急ぐこととなった。

　ハヴェリの街は山上に位置し、侍リングワールドの電気街とも呼ばれ、古代ハヴェリ文明の中心都市だった歴史もあってか、オカルティックな雰囲気も漂う。 治郎さんの常駐する天文台に向かう途中、髪の毛を金色に染めた少年少女が円陣を組んでいる。聞けばＵＦＯを呼んでいるとのこと。その中心には熊蔵がいた。
「熊蔵！ここで何しとっと！」
航が叫ぶと、熊蔵はテレポートで円陣の外に瞬間移動した。
「アドリアシティは暑くてかなわん。わしの別荘の黒い雪原で涼んだ後、子供達にＵＦＯの呼び方を教えてやったのじゃ。良い奴じゃろ？」
一同が呆れていると、街の中心に熊蔵とそっくりのクロムックの像がケースに入って飾られていた。そこに治郎さんが現れた。
「みんな、久しぶりだね。この像を見るのは初めてかな。これはムック像と呼ばれていて、エスタ共和国の独裁者だった髪長のＡＢＥの抜け殻なんだ。」
「コンニチハ。治郎さん。」
治郎さんは長男戦隊と面識があるが、初対面の熊蔵が挨拶すると、驚いて腰を抜かしてしまった。
「旅の途中の・・・ちょっとした副産物ということになっています。」
佑馬がフォローになっていないような説明をした。そして、清和は治郎さんにアトランティス大陸浮上が認可されたことを伝え、それを証明する書類を渡した。
「やったー！これで伝説のアトランティス大陸を浮上させることができるぞ！早速、準備に取り掛かろう。」
治郎さんが大声で叫ぶと、本当にＵＦＯが現れ、中から宇宙人らしき風貌の小人が出てきた。少年少女は喜び、宇宙好きの治郎さんは興奮を隠さない。 長男戦隊の４人も驚いている。熊蔵は「どうじゃ」と胸を張ったが、宇宙人の放つ光線銃を浴びて、消滅してしまった。宇宙人が喋り始めた。
「我々は侍り星人だ。あの黒いのは強制的にテレポートさせた。ああなりたくなかったら、大陸浮上は諦めろ。」
「こっちも大陸を浮上させなくてはならない理由がある。光線には注意して、反撃だ！」
英明を先頭に航、佑馬、清和が光線を避けながら、攻撃を加えると、侍り星人自体の防御力は低く、すぐにＵＦＯで逃走してしまった。 長男戦隊の４人は引っ掛かりを覚えながらも、天文台で大陸浮上の準備を進める、治郎さんを見守っていた。熊蔵のことは誰も心配していなかった・・・。

　その一方、洋、映明、藤田の３人はアドリアシティの対岸の青島(チンタオ)に移動した。アドリア城とロンドゥバロ村の解放を住民が祝っている。 孝允の海上保安長官としての拠点でもあり、事務所や家を訪問したが、有力な手掛かりは得られなかった。その後はゴンドワナ砂漠を視察した。
「確かに砂漠を越えて、南方から押し寄せるモンスターから住民を守るには、相当の兵力が必要だ。さらにアドリア王国はオイハマ南方でもケバプ帝国と接している。 インディア火山さえ守れば良い、エスタよりも負担が大きい。アドリア王国と戒人宰相殿、兵士達に敬意を表したい。何とかしないとな・・・。」
藤田はつぶやき、洋に耳打ちした。白樺忍者衆を通じて、岡に報告を入れるのだろう。視察を終えて、アドリア海軍の棗の船に乗り込むと、棗が頭を下げていた。
「本当は直接、オイハマに向かいたいのですが、強力なモンスターとの戦いを避けるため、ハヴェリのふもとの港までの航海とさせてください。 そこからヴァイン隧道と呼ばれる海底トンネルを通れば、オイハマに行くことができます。力不足で申し訳ありません・・・。」
３人が棗に頭を上げるように促すと、突然、熊蔵が現れた。棗は「化け物」と叫び、定在刃を放とうとするが、映明が制止した。
「棗中佐殿、私の知り合いです。ところで熊蔵、今まで何を？」
「宇宙人に光線を浴びせられて、無理矢理、テレポートさせられたのじゃ。」
熊蔵は答えるが、どうせ寝ぼけて夢を見ていたのだと、誰も信じようとしない。そんなやり取りをしていると、ハヴェリのふもとの港に到着した。 棗とアドリア海軍兵とは別れ、洋、映明、藤田に成り行きで熊蔵も加わり、ヴァイン隧道に入った。この海底トンネルは古代ハヴェリ文明が建造したとされる。 そのため作りが古く、出現するモンスター以上に壁から水が漏れないかの方が心配だ。出口に到着すると、目の前にはオイハマの集落が広がっていた。

　オイハマは別荘が立ち並ぶ保養地として有名だが、どこかで見たことがあるような、懐かしい雰囲気が感じられる。 早速、中野の研究所を訪問すると、全身を髪の毛で覆われているものの、かろうじて人間とわかる男が出てきた。この人物が中野のようだ。 映明はアトランティス大陸浮上が認可されたことを伝え、それを証明する書類を渡した。中野は研究所に入るように促し、話を始めた。
「それは治郎さんから聞いていて、ほぼ準備は整っているが、まだ浮上力不足だ。本当はハヴェリのムック像を使いたいのだが・・・。黒いの、こっちに来てくれよ。」
中野は熊蔵が目に入ると、急に表情を変え、熊蔵を連行して、怪しい装置の中に縛り付けた。珍しく熊蔵が怖がっている。
「なんか、ちょっと怖い・・・。」
中野がボタンを押すと、機械音が発生した後、地震が起こった。外に飛び出そうとするが、地震で扉が壊れたのか、簡単に開けることができない。洋が叫んだ。
「熊蔵、邪教会で使った爆発技だ！」
「わしは疲れた・・・。」
どうやら熊蔵はエネルギーを吸い取られてしまっているようだ。洋、映明、藤田、熊蔵はオイハマの中野研究所に閉じ込められてしまった。

　ハヴェリの街では地震が発生した後、アトランティス大陸浮上の様子が確認されていた。治郎さんが望遠鏡を覗きながら、歓声を上げていると、途中で様子が変わった。
「大変だ・・・。あの大陸にはモンスター・・・というよりは未知の生物、エイリアンらしきものが溢れているよ・・・。とんでもないことをしてしまった・・・。 奴らが大陸の外に出る前に、何とかしないと・・・。そうか！さっきの侍り星人はエイリアンが封印されていることを知っていて、浮上を妨害しようとしたのか・・・。」
「今は後悔している時間はない！アトランティス大陸に乗り込もう！」
英明の掛け声に航、佑馬、清和も続き、山から海に向かって駆け下りた。ハヴェリのふもとの港には、ちょうど棗の船が停泊していた。清和が叫んだ。
「棗中佐！危険を承知でのお願いですが、緊急事態が発生しました。あの大陸に私達４人を運んでください！」
ただならぬ状況を察した棗はうなずき、迫りくるエイリアンをかいくぐり、アトランティス大陸に長男戦隊の４人を降ろした後、少し離れた場所に待機した。 エイリアンはこれまでのモンスターとは一段上の強さで、４人は奮戦しながら、エイリアンが飛び出してくる建物の中に入った。その最深部にはボスが待ち構えていた。
「修平がエイリアンに詳しいから知っているが、こいつらはヤバイぞ！」
佑馬が叫ぶと、ボスのエイリアン達は激しい攻撃を仕掛けてきた。４人は完全に押されている。その時、敵の動きが止まった。後ろから太刀を浴びせた人物がいたのだ。
「本当にご迷惑をお掛けしました。その償いということで、余も加勢するよ！」
その人物は行方不明になっていた孝允であった。形勢は逆転し、ボスも含めた、全てのアトランティス大陸のエイリアンを倒した。その場で航が座り込んだ。
「一時はどうなることかと思ったばい。そして、何よりも孝允が見つかって、本当に良かったと。」
「余は離れ小島にテレポートさせられたのだけど、急に地震が発生して、小島が地殻変動を起こして、エイリアンだらけの大陸になった時は、本当に驚いたよ・・・。」
孝允は浮上前のアトランティス大陸で、海面上に顔を出していた小島にテレポートさせられていたのだ。英明が孝允に歩み寄った。
「瓶入りの手紙は俺が拾ったよ。無事に見つけられて、本当に良かった。そして、助けてくれて、ありがとう。」
長男戦隊の４人は孝允を連れて、棗の船に乗り込んだ。孝允はロンドゥバロ村の解放や強制収容所の壊滅の話を聞き、胸をなで下ろした。棗も孝允の発見に喜んでいる。 そして、アトランティス大陸の浮上で海流の流れが変わり、モンスターの出現率が下がったため、洋、映明、藤田、熊蔵がいると思われるオイハマに上陸した。

　英明、航、佑馬、清和、孝允はオイハマの中野研究所に到着した。扉を開けようとするが、完全に壊れていて動かない。そして、中から熊蔵の雄叫びが聞こえた。
「ここに熊蔵は飛ばされていたと！まさか宇宙人の光線銃のせいで凶暴化して、皆殺しにしたんじゃ・・・。」
航が作家らしく、一方的な妄想を膨らませると、その流れで佑馬も続けた。
「こちらは５人だが、相手は凶暴化した熊蔵だ。心して掛かろう！」
すると扉が破られ、５人は一瞬、臨戦態勢になるが、熊蔵を先頭に洋、映明、藤田が普通に出てきた。熊蔵が言った。
「さっきの掛け声は扉を破るために気合を入れただけじゃ。凶暴化や皆殺しなどと、みんなでわしを悪者にしようとしてただろ。」
「(やべっ、聞こえていた・・・。)」
航と佑馬は心の中でつぶやきながら、顔を見合わせた。映明は孝允の存在に気づいて駆け寄った。
「無事で本当に良かった。どこにおられたのでせうか。」
「余は浮上した大陸の一部にテレポートさせられていたみたいで、そこで戦っていた航君達と合流できたんだよ。」
孝允が言った。長男戦隊達は互いに起こった出来事を話し合い、モンスターの出現率が下がったこと、孝允が見つかったことを喜び合った。


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